大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)919号 判決

原告 東正人

<ほか一名>

右原告ら代理人弁護士 本渡乾夫

同 桜井公望

右本渡復代理人弁護士 田賀秀一

右桜井復代理人弁護士 桜井千恵子

被告 秋島建設株式会社

右代表取締役 稲村左近四郎

被告 十亀利雄

右被告ら代理人弁護士 設楽敏男

同 岩田豊

同 黒川厚雄

第一、主文

一、被告会社は、

原告東正人に対し金二、〇三三、八八九円

原告東リキに対し金二、〇三三、八八九円

および右各金員に対する昭和四二年八月二七日から完済にいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二、被告十亀に対する本訴請求を棄却する。

三、訴訟費用は、原告らと被告会社との間に生じた分については被告会社の負担とし、原告らと被告十亀との間に生じた分については原告らの負担とする。

四、この判決一項はかりに執行することができる。

第二、本訴請求の趣旨

「被告両名は原告東正人に対し金二、〇三三、八八九円

原告東リキに対し金二、〇三三、八八九円

および右に対する事故発生の翌日である昭和四二年八月二七日から支払ずみにいたるまで年五分の割合による金員の支払をせよ。」との判決ならびに仮執行宣言。

第三、争いない事実

一、死亡ブルドーザ事故発生

とき    昭和四二年八月二六日午後二時三〇分頃

ところ   静岡県引佐郡三ヶ日町都筑一一六六番地先、東名高速道路工事現場

事故車   被告会社所有の大型ブルドーザ、小松D一二〇、アングル、ドーザ 機関番号四一九号

右運転者  被告会社従業員早坂秀二郎、昭和二三年九月二六日生

受傷死亡者 原告らの子、被告会社の従業員亡東洋二 昭和二二年二月一日生

態様    亡洋二は右ブルドーザの下敷になって死亡した

二、責任原因について

被告会社は本件ブルドーザをその運行の用に供する者であり、被告十亀は被告会社の本件現場東名高速道路佐久米工事事務所の所長であった。

三、損害について

亡洋二の被告会社における給与は左のとおりであった。

昭和四二年二月  本給二〇、〇〇〇円

諸手当一〇、二五〇円

計 三〇、二五〇円

四月       本給二一、五〇〇円

諸手当 七、〇〇〇円

計 二八、五〇〇円

五月 本給 右同

諸手当一〇、一八〇円

計 三一、六五〇円

六月 本給 右同

諸手当一〇、一〇〇円

計 三一、六〇〇円

七月 本給 右同

諸手当 八、三九〇円

計 二九、八九〇円

第四、争点

一、原告らの主張

(一) 責任原因

1 被告会社の運行供用者責任

本件事故は、故障中の本件事故車を早坂らに命じて無理に稼働させ、また早坂は運転台にいた者としてエンジン修理中、エンジンが始動しても車が動き出さないよう当然なすべき注意を怠ったために起きたもので、自賠法三条による賠償責任を免がれない。

2 被告十亀の代理監督者責任

現場工事事務所所長として、本件工事現場の一切の業を総括監督する者であったところ、事務所長として相当の注意を怠ったため、事故発生をみたものであるから民法七一五条二項による責任を免れない。

(二) 原告らの損害

1 逸失利益請求権の相続 各金一、五三三、八八九円

亡洋二は死亡時満二〇才であったところ、六〇才まで少くとも三九年間は稼働可能で、一生たずさわったであろう建設機械操作手の職種の企業規模五〇〇人以上(被告会社はこれに当る)の会社における平均給与月三八、六七五円(労働省労働統計調査部統計、昭和四一年度東京都建設業平均賃金五二、七八二円)相当の収入は得た筈である。そこで生活費を半額として控除した純収益の右三九年間の現価の総計をホフマン式計算(年五分の割合による利息控除)により算出すると金三、〇六七、七七九円となる。この請求権を父母として法定相続分に従い二分の一あて相続により承継した。

2 慰藉料 各金五〇〇、〇〇〇円

父母として原告らを慰藉すべく右金額が相当である。

二、被告らの主張

(一) 被告会社の無責

本件事故は専ら訴外亡洋二の過失により発生したものである。すなわち事故直前本件ブルドーザは土地のくぼみに落ちてエンストを起したのであるが、亡洋二は大型ブルドーザの運転免許はもちろん運転の経験知識すらなく、かつエンジンその他機械の修理、整備について無資格の上、うかつにも左側キャタビラの上にぞうり履きのまま乗って、かがんだ姿勢で様子をみた不注意により突然ブルドーザが動きはじめた際、ぞうりとキャタビラについていた砂とがくっついてしまい、とびおりることができず、キャタビラの動きに引きづられて下敷になってしまったものである。予め運転手とブルドーザの動きについて連絡をとることなく右のような危険を冒した過失は少なくない。

(二) 過失相殺

かりに被告会社に何らかの責任があるとしても、右のように亡洋二の過失は重大であるから過失相殺されねばならない事案である。

第五、争点に対する判断

一、責任原因

(一) 被告会社の運行供用者責任

本件事故は、ブルドーザがエンストを起した際、運転者早坂がクラッチ、変速のレバーを中立にせず、またサイドブレーキをかけないまま、現場の指揮者工務係の富森の指示するままに調整のためとびのった亡洋二に車両の点検エンジンの始動を委ねた過失により、亡洋二がエンジンを始動させると同時に車が発進したため、左キャタビラに乗った亡洋二は前部に転落し、本件事故となったものである。従ってもとより自賠法第三条により、賠償の責に任じなければならない。

(資料≪省略≫)

(二) 被告十亀の代理監督者責任は認められない。

被告は従業員三四、五名をかかえた本件現場の工事事務所長として、全般的な工事の進行を指揮監督しており、また被告会社の取締役ではあった。

しかしながら被告会社が資本金一億二千万円、役員約二〇名で全国に同様な工事現場七、八〇ヶ所を持つ規模の中で、本件現場が一つの企業体に準じた独立性を持っていたわけではないし、また亡洋二をはじめ従業員の採用選任に関する人事権はすべて本社にあって、被告十亀はその点何らの権原もなく、また被告会社もしくは現場業務の遂行に関し経営者に準じた利益享受の立場にもなかった。そして現場の具体的な個個の指揮監督に、独自の立場から日常直接タッチしていたわけでもなく、その指揮監督の実はすべて被告会社の機関として、その組織に吸収されてしまう関係にすぎなかった。右のような事情のもとにおいては、その指揮監督の内容と事故発生との関連などその余の判断をまつまでもなく、いまだ代理監督者としての責任を問うべきではない。代理監督者責任を追求できる代理監督者とは会社の事実上の経営者のように企業としての通常の組織体のわくからはみでまたはその組織、運営をとびこして事実上の主宰、直接の采配を振る地位にある者に限定すべきであろう。

(資料≪省略≫)

二、損害

(一) 逸失利益 各金一、九一七、〇〇〇円

亡洋二は事故当時被告会社にブルドーザ運転助手として勤務し、月平均三〇、三七八円を得ていた。ところで同人は当時二〇才で健康であったから平均余命の範囲内でなお三九年間は就労できて少くとも右月収額は得られた筈であり、生存の場合はその約半額を生活費に要するとすれば、その純収益は月当り一五、〇〇〇円を下らない。したがって死亡による右期間と純益割合による逸失利益の現価の総計をホフマン式計算(年五分の割合による中間利息控除)により算出すると金三、八三四、〇〇〇円となる。

15,000×12×21.3=3,834,000

この請求権を、原告らは父母として法定相続分に従い、二分の一あて相続により承継した。

(二) 慰藉料 各金五〇〇、〇〇〇円

原告主張のとおりである。

(資料≪省略≫)

三 過失相殺の主張について

本件事故については、亡洋二の行動についても、運転免許はないもののブルドーザの装置にある程度馴れていながら、クラッチ、変速レバーが中立になっているかどうかを確かめることもなく、エンジンの始動を試みたことなどの不注意が認められる。しかしとっさに上司の富森から調整、修理を指示されるままにおよんだ行為であって、下級の若年労務者であった亡洋二の被告会社の地位から検討すると、その不注意も事故態様、経過からしてすべて被告会社の監督上の過失として吸収されてよいものである。従って企業の社会的責任の見地から政策的裁量にもとずき過失相殺すべきではないと考える。

(資料≪省略≫)

四、損害の填補

原告らの本件事故による損害賠償請求権は前二項認定のとおり計各金二、四一七、〇〇〇円となるが、労災給付として葬祭費六万円のほか四六万円の給付を受けたことが認められるから、二分の一あて填補されたものとして原告らの請求権から各二三万円を差引くと、未済残額は各金二、一八七、〇〇〇円となる。

(資料≪省略≫)

五、結論

そうすると被告会社に対する右認定の未済損害額の範囲内である原告らの請求はすべて認容すべく、被告十亀に対する請求は棄却するほかない。

訴訟費用につき民訴法第八九条、第九三条仮執行宣言につき同第一九六条を適用した。

(裁判官 舟本信光)

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